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秘する恋 秘するが花 V-side 隻09 最終回
◆09「ああ・・・ヴァル。愛しているよ」彼は虚言を囁いた。「貴女がいつか、このアルディ邸の本邸の執務室に深く腰掛けて・・あの一族の頂点に君臨する日が来れば良いなと思っている。それは貴女次第だがね」さあ、行きなさい、と彼は言った。「今夜は・・・シャルルは酷く機嫌がよい。彼の第一秘書である従妹を呼んで、今後の打ち合わせで滞りないことを確認したばかりだから。薔薇園の薔薇を整え始め、彼は準備を進めている。これ...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻08
◆08彼がその瞬間までは、半分の片割れだという感覚を完全に払拭することができなかった相手は・・・彼と同じ遺伝子を持ちながら、ミシェルの存在をどこか遠くに感じているようだった。双生児だから何もかもが通じ合うというのは寓話の中の話だ。それなら、彼が感じたことのどれだけを当主は感じているのだろうか。彼を攻撃して、彼が重篤な状態に陥った時でさえ、僅かな痛みさえ感じなかった。彼らは・・・・今では、余程のことが...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻07
◆07彼はヴァレリーの額に接吻すると、逞しい胸の中に彼女を引き入れた。恋人との抱擁よりも、もっと大切そうに。もっと壊れ物を扱うかのように静かに細心の注意を払って。彼女の小さな背中に手の平を添えて、早く大きくおなり、と囁く。つい先刻までは、彼女に触れようとしなかったのに。彼女の問いかけに、彼が考えを改めたようだ。ミシェルは考え方を覆すことはしない。だから、改めるというよりは、別の可能性について考え始め...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻06
◆06「そういう者を多く作ってはいけない。・・・それは弱みにはなるが精華にはならない」「・・・作る必要はない。意味も理由もないから」ヴァレリーの答えに、ミシェルは眥をぴくりと動かした。完璧な答えだ。確かに希望で増減できるもではない。そして彼女の希望は影響しない。自己決裁が可能であるならば、真っ先に・・・無音で彼女に近接するあの男を削除するであろう。だから。この言葉の意味は・・・彼女は誰かに寄り添うこ...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻05
◆05彼は自らヴァレリーが質問することを許可した。だから、黙秘するという選択肢は残されていない。同じ答えは連続も断続も含めて決して言わないミシェルに・・・ヴァレリーは艶やかに微笑んだ。年端もいかない幼い娘が静かに笑む仕草が・・・妙に艶めかしい。嫣然とした綻びでありながら、冷たくて・・・そしてそれを見た者に我を忘れさせるような玲瓏さがあった。翠色の瞳に吸い込まれて行きそうな強さを感じる。そして彼だけし...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻04
◆04ミシェルは唇を歪めて媚笑した。彼女に振り向くことなく、窓硝子の向こうの遠い景色を眺めながら、ミシェルは翠の瞳の姪を褒め称えた。「ヴァレリー、良い順番だね」彼はそう言って、その時に初めて、くすりと声を漏らした。彼女は知っているのだ。ミシェルが決して繰り返さないことを。だから、質問する順番を選んだ。決して「気まぐれだ」と適当な答えでもって、回避されないように。ミシェルの教えを守って・・・彼女は最も...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻03
◆03ミシェルとヴァレリーの会話はとても短い。感想や考察を伴わない事実の往来しか存在しないからだ。・・・会話を楽しむという習慣はなかった。彼女の周囲の者たちが、そっとヴァレリーを憐れむような瞳で見るとき。気付かれないように振る舞っているようであったが、ヴァレリーにはわかっていた。彼らの所作は皆一様に、やかましい。彼女の聴覚に障り、そしていつもあっという間に通り過ぎて行く。・・・・そういった時は、彼女...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻02
◆02簡単に今日の行程を淡々と語った。そんなことは、従者の誰かに報告させれば良いことなのに。彼女がいつも客観的であるか、自分の意志に挫けて定められた予定が脆弱な意志に左右されないかどうかをミシェルはいつも確認する。・・・一度確認すれば、必要のないことであるのに。人間の資質や性分というものは、経年とともに変化するのだそうだ。または状況やその時の精神状態によっても。それが彼女には理解できない。おそらくヴ...
秘する恋 秘するが花 V-side 隻01
◆01ヴァレリーがアルディ邸の主玄関から自分の棟に戻るまでにはかなりの時間を要する。セキュリティの問題もあるが、彼女はここに居を構えるまではずっと・・・流転の人生を歩んでいた。住居とは所詮、躰を休める場所であり、条件が整っていれば、それほど拘る事項ではなかった。結局は空間であり、彼女の好む闇の静寂を確保できるのであれば、どこでも良かった。ヴァレリーの注文は、幼年齢であることを理由に侮っていると、手厳...